ニュースの概要
タイの化学大手Indorama Venturesが、プラスチックのリサイクル事業に総額15億ドルを投じる計画を明らかにした。内訳は、今後5年間で使う10億ドルと、顧客の規制対応を後押しするための追加5億ドルである。10億ドルは、既存工場の改修や新設、企業買収に充て、使用済みのペットボトルを再びボトルへ戻す「ボトル・ツー・ボトル」事業を広げる。追加の5億ドルは、各国で広がる再生材の使用義務に、飲料や日用品のメーカーが対応しやすくするためのものだ。同社はタイやメキシコなど複数の国に拠点を持つ。世界最大級のPET樹脂メーカーが、再生材を事業の中心に据え直す動きとして読める。
引用元: Indorama Ventures、リサイクル事業に15億ドルを投資へ(Reuters / The Daily Star)
分析・見解
15億ドルは環境投資より供給網の確保策に近い
この発表を環境への寄付のように読むと、本質を外す。狙いは、規制で必ず需要が生まれる再生材を、先に押さえることにある。
欧州連合は包装規則の中で、2030年までにペットボトルへ30%の再生材を使うことを求めている。米国のカリフォルニア州も、2030年に向けて段階的に再生材の比率を引き上げる法律を持つ。飲料メーカーは、義務を満たせなければ販売そのものが危うくなる。
だからこそ、再生樹脂は「あれば良いもの」から「確保しなければならないもの」に変わった。投資の規模は、その切迫感の表れである。
買収を組み込んだのは、回収網という資産が欲しいから
計画の特徴は、設備の新設だけでなく買収を明示している点にある。
リサイクル工場は、建てるだけでは動かない。原料となる使用済みボトルを、安く安定して集める仕組みが要る。回収業者との長年の取引、選別の技術、地域ごとの許認可は、短期間では作れない。
既存の事業者を買えば、これらをまとめて手に入れられる。ここは、工場の建設費よりも価値が大きい部分だ。
過去にも似た例がある。飲料大手が再生樹脂の工場に出資したり、包装メーカーが回収会社を傘下に収めたりする動きが、欧州を中心に続いてきた。Indorama自身も、すでに複数の国でリサイクル拠点を持つ。今回は、その延長線上で一段と規模を上げたと言える。
見落とされやすい壁は、原料の取り合いと価格
ただし、再生材は需要が増えれば自然に供給が増えるものではない。
使用済みボトルの回収率は国ごとに大きく違う。回収制度が整った欧州の一部では高いが、東南アジアや中南米では、街の回収業者に頼る部分が大きい。原料が足りなければ、工場の稼働率は上がらない。
加えて、再生樹脂の価格は新品の樹脂や原油の相場に引っ張られる。新品が安くなると、再生材は割高になり、買い手が離れやすい。規制による義務があっても、価格差が大きければ、メーカーの利益を圧迫する。
投資が報われるかどうかは、工場の性能よりも、原料の調達力と価格の折り合いで決まるだろう。
独自の視点として、本当の競争は規制の足並みにある
もう一つ注目したいのは、投資の成否が各国の規制の足並みに左右される点だ。
義務の比率や、再生材として認められる条件が国ごとにばらばらだと、メーカーは地域別に仕様を分けねばならず、工場の稼働も読みにくくなる。逆に、基準がそろえば、需要が見通しやすくなり、投資の回収も早まる。
つまり、この15億ドルは、規制がこの先も強まり続けるという賭けでもある。賭けに勝つ鍵は、技術ではなく政策の安定だ。ここを見誤ると、設備だけが余る。
ビジネスへの影響
飲料・日用品メーカーは調達契約を今のうちに見直したい
再生樹脂の大型供給元が動くと、市場の主導権は早めに固まる。供給枠は、先に長期契約を結んだ会社から埋まっていく。
自社の包装に再生材をどれだけ使うのかを、義務化の時期から逆算して決めておきたい。そのうえで、複数の供給元と契約を分け、一社の事故や値上げに振り回されない形にしておくと安全だ。
価格は新品より高くなる前提で、商品価格や利益の計画に織り込む必要もある。
中小企業にとっては、取引先からの要請が先に来る
自社に直接の義務がなくても、大手の取引先が再生材の比率を上げれば、その要請は下請けや包装の納入先に降りてくる。
問い合わせが来てから動くと、調達が間に合わない。まずは、使っている包装材の素材を洗い出し、再生材に切り替えられるものを見極めたい。
切り替えの際は、品質や食品への安全性の確認に時間がかかる。試作と検証の期間を、半年から一年見ておくと現実的だ。
投資先としては、回収網を持つ事業者の動きを追う
投資や提携を考える立場なら、工場の新設よりも、原料の回収網を持つ会社の買収や提携のニュースが先行指標になる。
同社の次の買収先や、進出する国を追えば、再生材の供給が厚くなる地域が見えてくる。一方で、新品樹脂の価格が下がる局面では、収益が崩れやすい。景気や原油の動きも、あわせて確認しておきたい。