ニュースの概要
米エネルギー省(DOE)は、化学大手Eastman Chemicalへの3億7,500万ドルの助成を再び承認した。対象は、リサイクルが難しいポリエステル廃棄物を分子レベルまで分解し、新品同等の原料へ戻すメタノリシス(=メタノールを使った分解)技術の拡大である。金額は、すでに受け取った約3,500万ドルを差し引いた後の数字だ。Eastmanは当初、テキサス州ロングビューに第2の先進的リサイクル工場を建てる計画だったが、今回は事業の見直しを経た再承認となった。政権や市場環境が揺れるなかでも、国の資金が化学リサイクルに向かい続けることを示す出来事である。
引用元: 米エネルギー省、Eastmanのプラスチック再生事業に3億7,500万ドルの助成を再承認(Chemical Processing)
分析・見解
助成金が戻ったことより、一度止まった事実が重い
この再承認で見るべき点は、金額の大きさだけではない。一度は先行きが不透明になった事業に、国が資金を戻したことが重要だ。化学リサイクルは設備投資が巨大で、回収までに10年近くかかることも珍しくない。そのため、政策が変わるたびに計画が止まるリスクを抱える。今回の再承認は、このリスクが一部やわらいだ合図とも読める。ただし、すでに受領した約3,500万ドルを差し引いた残額という点には注意したい。満額が一気に出るわけではなく、工程ごとの審査を通る必要がある。
洗って砕くだけの方法では届かない領域を狙う
一般的なリサイクルは、ペットボトルを洗い、砕き、溶かして再成形する。これは手軽だが、色のついた繊維や多層の包装材、汚れの強い廃棄物には向かない。何度も繰り返すと品質も落ちる。メタノリシスは、ポリエステルを化学反応でごく小さな分子まで戻し、不純物を取り除いたうえで、もう一度つくり直す方法だ。結果として、新品の石油由来原料と同じ品質のものが得られる。衣料品、食品容器、医療用途のように品質要求が厳しい分野で価値が高い。Eastmanはテネシー州キングスポートで既に商業規模の設備を動かしており、技術が実証済みである点が、他の新興企業との大きな差になっている。
最大の壁はコストと原料の確保にある
技術が成立しても、採算が合うとは限らない。石油由来の新品原料は安く、再生原料に上乗せされる価格(グリーンプレミアム)を、買い手がどこまで払うかが焦点になる。さらに、工場を動かすには大量の廃棄物を安定して集める仕組みが必要だ。日本でも、使用済みペットボトルを同じ用途に戻す水平リサイクルは進んでいるが、衣料など繊維の回収網はまだ細い。欧州連合は繊維の拡大生産者責任(=作った企業が廃棄後の処理にも責任を持つ制度)を広げており、回収の費用負担が制度化されつつある。米国は助成金で先に設備を支える形で、欧州は規制で需要をつくる形だ。両者の違いは、今後の投資の流れを左右する。
補助金頼みの事業は、出口が見えて初めて強くなる
助成金は呼び水にすぎない。本当に問われるのは、補助が終わった後も事業が回るかどうかだ。ここで鍵になるのが、ブランド企業との長期購入契約である。買い手が先に数量と価格を約束すれば、工場は資金調達しやすくなる。化学リサイクルの勝負は、技術の優劣から、原料の回収網と買い手の確保へ移りつつあると私は見ている。
ビジネスへの影響
調達担当は再生原料の価格と量を二重に確認する
ポリエステルや樹脂を使う企業は、再生原料の調達計画を見直す好機だ。まず確認したいのは、供給元が実際に稼働している設備を持つかどうかである。計画段階の工場は、助成金や政策の変更で遅れる可能性がある。次に、価格の決め方だ。新品原料の相場に連動する契約か、固定の上乗せ価格かで、数年後の負担が大きく変わる。複数の供給元に分散し、一社の遅れが自社の生産停止にならない形をつくっておきたい。
環境訴求を掲げるなら、数字で語れる体制を先につくる
再生原料を使った製品は、販売時に環境配慮を訴えやすい。一方で、根拠のない訴求は規制や批判の対象になりやすい。どの工程で、何割が再生由来なのかを、帳簿上の割り当てではなく実測に近い形で示せるかが重要になる。分子レベルで戻す方式は品質が安定するため、食品容器や衣料のように説明責任が重い商品と相性が良い。早めに社内でデータの取り方を決めておくと、後の監査や取引先の要請にも落ち着いて対応できる。
日本企業は回収網づくりの共同事業を探す
日本では、繊維や多層包装材の回収が弱い。ここを自社単独で解決するのは難しい。小売、アパレル、素材メーカーが共同で回収し、海外の分解設備に原料として送る、あるいは国内で設備を持つ、といった連携が現実的な選択肢になる。今回の米国の動きは、公的資金がどこへ向かうかの先例として参考になる。国内の補助制度の動向を追いつつ、協業先の候補を今のうちに洗い出しておくとよい。