ニュースの概要
東レが、自動車部品や電気電子部品に使われる高機能樹脂PPS(ポリフェニレンスルフィド)について、溶媒を使って使用済み製品から原料に近い状態へ戻すリサイクル技術を開発したと伝えられた。再生した樹脂は新品と同等の品質を保てるとされ、同社は2030年ごろの販売開始を目指している。PPSは熱や薬品に強く、ガソリン車の燃料系部品から電気自動車のモーター周辺部品まで幅広く使われる。使い終わった後は焼却や埋め立てに回りやすかった素材だけに、品質を落とさず循環させる道が見えたことの意味は小さくない。
引用元: 東レ、自動車部品などに使われるプラスチック「PPS」の溶媒リサイクル技術を開発。新品同等の品質で2030年めどに販売へ(Circular Economy Hub)
分析・見解
汎用樹脂とは違う、PPSリサイクルの難しさ
ペットボトルのPET(ポリエチレンテレフタレート)は、洗って溶かして再び成形する方法が確立している。一方PPSは、耐熱性が高く薬品にも強い。この長所がそのままリサイクルの壁になる。
通常の溶融再成形では、熱で分子が傷み、強度が下がる。ガラス繊維などの充填材が混ざった成形品も多い。そのため再生品は品質が落ちた用途に回る、いわゆるダウンサイクルが中心だった。今回の溶媒方式は、樹脂を溶媒に溶かして不純物や充填材を分け、もう一度きれいな樹脂として取り出す発想である。これなら新品に近い性能が保てる可能性が高い。
品質を落とさない再生が持つ本当の価値
今回のニュースで重要なのは、再生できることよりも、同じ品質で戻せることだ。自動車部品の世界では、認定を受けた材料を勝手に変えられない。材料の性能が一段でも落ちると、設計のやり直しと再認証が必要になる。
新品同等であれば、既存の設計や認証をそのまま使いやすい。車メーカーから見れば、再生材を入れても品質保証の負担が増えにくい。これは再生プラスチックが長年抱えてきた、環境には良いが使いにくいという弱点を直接つぶす点で大きい。
欧州規制が2030年という時期を決めている
2030年めどという時期にも理由がある。欧州では使い捨て製品だけでなく、自動車への再生プラスチック最低使用率を定める案が議論されてきた。自動車に使う新しい樹脂の一定割合を再生材にする義務化が進めば、再生材を確保できない部品メーカーは欧州向けの納入で不利になる。
日本の化学メーカーにとって、先に技術を押さえることは環境対応であると同時に、輸出を守る防御策でもある。独自の視点で言えば、勝負を分けるのは技術そのものより、使用済みPPSをいかに安く集めるかだ。工場から出る端材は集めやすい。しかし車から外した部品は、分解の手間と回収網がいる。溶媒方式は、この回収コストを上回る価値を生めるかが問われる。
同じ素材でも、相手ごとに成否が分かれる
類似の取り組みは他にもある。ペットボトルを化学的に分解して原料へ戻す事例では、石油由来の新品より割高になりやすい点が課題だった。PPSは新品の価格が高い高機能樹脂だ。再生による価格差が縮まりやすく、採算が合う可能性はPETより高い。ただし溶媒の回収率やエネルギー消費が増えれば、環境面の利点が薄れる。工程全体で排出量を下げられるか、第三者の検証が欠かせない。
ビジネスへの影響
調達部門は再生材の認証枠を今から準備する
PPS部品を使う企業は、2030年の販売開始を待つ必要はない。今のうちに、再生材を使える部品と使えない部品を仕分けておきたい。安全に関わる部品は慎重に、外装に近い部品や非構造部品から試す順序が現実的である。
あわせて、取引先の材料メーカーに再生材の提供予定を確認しておくとよい。サンプル評価の段階から関わる企業は、供給枠を先に確保しやすい。
脱炭素の数字をどう報告に載せるか
再生PPSを使えば、新品を作る際の温室効果ガス排出量を減らせる見込みがある。サプライチェーン全体の排出量を開示する企業にとって、材料段階の削減は数字にしやすい。
ただし、削減量を示すには、再生工程の電力や溶媒の扱いまで含めた算定が必要になる。メーカーから、算定根拠付きのデータを入手する習慣をつけておきたい。
中小の部品メーカーが取れる現実的な動き
成形を担う中小企業は、端材を捨てずに分別して保管する体制を整えるだけで、将来の回収網に乗りやすくなる。材料ごとの端材管理は、品質管理の基本でもあり、追加投資は小さい。小さな準備が、数年後の取引条件を左右する可能性がある。